これほど快適に暮らせるようになったのに、なぜ多く人が精神的な不調を訴えているのだろうか。本書はその答えを探す本だ。
アンデシュ・ハンセン著 久山葉子訳 「ストレス脳」(2022)新潮新書 p9
↑「ストレス脳」はそんな本です。
著者はスウェーデン出身の精神科医、アンデシュ・ハンセン氏。日本では著書「スマホ脳」が大ブレイクし、一躍有名になった方だ。
なんてセクシーな光の当て方なんだろう。まるで半月のようだ。人生の成功とその裏に潜む影でも表現しているのだろうか。とにかくこの顔写真のお陰で、10万部くらい余計に売れたと思う。ファストフード店がこぞって秋に展開する「月見バーガー」も、ハンセン氏の顔写真をポスターにすれば、飛び抜けて売れるんじゃないだろうか。
日本でも人気のハンセン氏であるが、実は私、「スマホ脳」より前からハンセン氏のことを知っていた。処女作の「一流の頭脳*」を読んでいたからだ。ふははははっ!
これは失礼。つい調子に乗ってしまった。まるで「やっぱヒゲダンはブレイクすると思ってたわー!俺は『Pretender』より前の『ノーダウト』から知ってたんだよね」と自慢してくるヤツと同じである。
*一流の頭脳は「運動脳」として2022年に再出版された。
※Official髭男dismの名曲「Subtitle」と格闘した話はこちら↓
ここからは私が気になった2カ所を取り上げていく。
ほら ヒトは10万キロカロリーも持ってるんだからさ ah
しかしあなたの脳がストレスシステムを起動させず、もし本当にライオンが潜んでいたとしたら10万キロカロリーの損失になる。それがあなたを食べたライオンが得るカロリーだからだ。
アンデシュ・ハンセン著 久山葉子訳 「ストレス脳」(2022)新潮新書 p52
これは、ヒトはなぜパニック障害になるのか、の説明の一部。ヒトのストレスシステムの過敏さは火災報知器に似ているそうだ。草むらから「ガサガサッ」という音を聞いて逃げ出せば、約100kcalの損失で済むが、逃げ出さずライオンがいた場合は10万キロカロリーの損失(=ライオンがあなたを食べて得るカロリー)なのだ。
私は驚いた。ヒトって、10万キロカロリーも持っているのか。一日の推奨摂取カロリーを2000kcalとしても、その50倍である。ダイエットの宿敵・ショートケーキ(350kcal)などかわいいもんだ。
これは日常で使える雑学である。
例えばあなたの恋人とケーキ屋さんの前を通ったとしよう。恋人は「太っちゃうからガマンしなきゃ~」などと言いながら、じっとケーキを見つめている。そういう時は「ヒトの体のカロリーは10万キロもあってね・・・だから気にすることはないよ」といってケーキ屋の扉を開け放てばよい。あなたの好感度は血糖値のように急上昇するだろう。
もし店内でヒゲダンの「あの曲」が流れていれば完璧だ。
♪ほら ここで君が笑うシーンが見どころなんだからさ ah
あ, これは10万キロカロリーではなく、115万キロのフィルム(Official髭男dism)だった。
ハンセン氏は、医学部に再入学していた
24歳の時、私は人生を180度転換することに決めた。当時ストックホルム商科大学経済学部の卒業を目前にしていて、夏休みには投資銀行やコンサルティング会社でアルバイトも経験していた。同時に、これが本当に自分のやりたいことだろうかという疑問とも格闘していた。実はその疑問は大学に入った第1日目から頭にあった。それが毎年大きくなっていき、ついには無視できないところまできてしまったのだ。
~中略~
その年の冬から翌年の春にかけて、私は家に引きこもっていた。悩み続け、よく眠れなかった。ああでもないこうでもないと考え、苦しんだ。心を決めてもすぐに翻した。~中略~1年後、私はカロリンスカ医科大学の大きな講堂に足を踏み入れていた。今日から医大生になるのだ。それは人生最大の決断で、あとになって考えてみると、その決断をするために落ち込む時期が必要だった気がするのだ。
アンデシュ・ハンセン著 久山葉子訳 「ストレス脳」(2022)新潮新書 p113-114
私はてっきり、ハンセン氏はストレートで医学部を卒業し、成功の道を突っ走ってきた人だと思い込んでいた。だが違った。今世界中から賞賛を浴びているハンセン氏は、実は普通の人よりも周り道をしていた。しかもその決断までに、長く苦しい葛藤があったのだ。
それよりも私は、ハンセン氏が経済学部を辞めなかったことに感動している。入学初日で「あれ、これ違くね?」と疑問を抱いてしまったら、卒業までの時間が無駄に思えるだろう。
それでもハンセン氏は大学を辞めることはなかった。投資銀行やコンサルティング会社でバイトまでした。初日に感じた「あれ、これ違くね?」が本物かどうかを、4年という時間にさらして確かめていたのかもしれない。
スティーブ・ジョブズは「心と直感に従う勇気を持ちなさい」と言ったが、「心の声を疑う勇気」も大切だ。新たな人生を始める時間があるなら、決断を下すまでの時間もたっぷりあるのだ。
人生のドラマは、ドラマチックじゃない部分が生み出しているのかなと思いました。
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