むしゃむしゃプログラム2

ぬるい話
UnsplashMichele Blackwellが撮影した写真

前回の続きの話なので、先に「むしゃむしゃプログラム」を読むことをおすすめする。「むしゃむしゃプログラム2」だけでも話はわかるが、それは「トイ・ストーリー」をとばして「トイ・ストーリー2」を観るようなものだ。かく言う僕は、武者修行プログラムに向かうベトナム行きの飛行機で、いきなり「トイ・ストーリー4」を観て寝落ちした。

固形物を最低30回咀嚼する「むしゃむしゃプログラム」を達成し、武者修行プログラムのLINEグループに自慢げに報告した。図に乗った僕は、SDGs顔負けの野心的な目標を定めた。それは「『おやつとデザートはナッツかフルーツのみ』を30日間継続する」である。

むしゃむしゃプログラムのお陰で、アンパンマンミニスナック以外の菓子パンは買わなくなった。しかし、幼児が食べられるほど原材料にこだわって作られているとは言えど、菓子パンであることには変わらない。それに、アイス断ちもできていなかった。砂糖は細胞老化を引き起こす。さらなる健康体を手に入れるためだ。犠牲無くして前には進めない。

LINEグループで第2の挑戦を宣言した翌日の昼、僕は献血ルームに向かった。成分献血を予約していたからだ。

成分献血は通常の献血よりも身体への負荷が少ない。しかし時間が60分ほどかかる。採血中、ゆったりと本を読んでいると、看護師さんが話しかけてきた。

「お昼過ぎたんですけど、お腹すいてないですか?よろしかったらチョコいかがですか?」

「はい!お願いします!」

女性に「チョコいりますか?」と言われて断るような教育を僕は受けていない。ご好意に応えたいという青年の心は、自ら立てた目標を容易に突き破った。

僕は米粒1つ残さない「もったいない」主義者だ。チョコを渡されたら食べない訳にはいかない。敗北が決まった。

しかし、看護師さんが肘掛けに置いてくれた3つのガーナは、個包装のままであった。セーフ!あとで友達にでも配ってしまえば、僕が食べる必要はない。マスクの下で勝利の笑みを浮かべ、ポケットにしまうためにガーナに手を伸ばす。

ー開いてる。

個包装の片側の口が開いてた。採血で片腕しか使えないため、食べやすいようにと看護師さんが予め切ってくれていたのだ。看護師さんの「おもてなし」は僕よりも一枚上手だった。

日本人が誇る「もったいない」と「おもてなし」の精神は、時に双璧を成してダイエット挑戦者に立ちはだかる。

チョコを口に入れて溶かす。口内ではむしば菌は踊り狂っているだろう。バイキンマンと化した彼らがしゃがれた声で叫ぶ「ハーヒフーへホ~!これは本当にチャレンジ失敗なのか!?時間的にはお昼ご飯だからセーフじゃね!?もっとお菓子食べちゃえよ!!」

チョコ食べちゃって力が出ない・・・。そうだよね、これは失敗じゃないよね。心まで腐り始めた時、バタコさんの強肩からバインミー(ベトナムのサンドイッチ)が放たれた絵が脳裏に浮かんだ。

やすい!はやい!うまい!と三拍子揃ったバインミーは、ベトナム生活における吉野家であった。そうか、思い出した。あの2週間で僕が一番学んだことは・・・。

「自分にも、他人にも、正直に生きる」

武者修行プログラムで学んだ哲学は、チョコを食べてもなお、蝕まれていなかった(虫歯だけに)。その日の夜、LINEグループでチャレンジ失敗を報告し、第2の挑戦は1日で幕を閉じた。

だがこの記事を書いている今、再チャレンジ中である。今日で5日目を迎えたが、山場は約1週間後の献血だ。作戦は既に準備してある。看護師さんを熊だと思い、近づいてきたら死んだふりをするのだ。いや、献血ルームでそんなことをしたら、僕に輸血が必要だと思われてしまうか。

P.S.
ついに決戦の日を迎えました。話しかけられないよう黙々と本を読む僕に、看護師さんが一言。

「チョコ、置いておきますね」

肘掛けの上には、すでに個包装から取り出されたガーナが3つ。

まいりました。

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