人は「間」が恋しい

ぬるい話
PIROによるPixabayからの画像

先日、成分献血をしに献血ルームに行った。成分献血とは、血液中の血漿や血小板のみを取り出す方法で、約一時間かかる。問診や献血後の安静も含めると、合計二時間くらいだ。結構時間かかんじゃん、と思われるかもしれないが、献血ルームの設備は充実しているのでご心配なく。駅前でやっているバス内での献血をエコノミークラスとすれば、献血ルームはファーストクラスだ。もはや空の旅より快適である。

献血ルームにはマンガもあるし、イスは都心のクリニック並みにしっかりしてるし、各イスにiPadがついてるし、看護士さんが飲み物持ってきてくれるし、献血後はパンを食べられるし、帰りはお土産(お菓子やスープの素や除菌シートなどで、日によって違う)もある。献血で貰ったお菓子を振る舞えば、「お菓子をくれるいい人」かつ「献血で社会貢献している人」と見なされ、あなたの株が上がること間違いなしだ。

そんな感じで気分上々になれる献血ルームだが、今回は少し自信を失った。

献血中、いつもは本を読んでいる私だが、iPadで将棋を指した。結果は0勝二敗。いずれも初級モードだった。

「今日は、自分の将棋ができなかった」

もし看護師さんにインタビューをされていたら、私はそう答えただろう。初級モードに負けたお前が何をほざいているんだと言いたくなるだろうが、言い訳をさせて欲しい。

短すぎるのだ。PCの思考時間が。私が5分考えても、PCは一瞬で返してくる。まるで息継ぎができないままクロールをしているようだった。集中力はすぐに尽きた。初級者には「考えて、休む」のサイクルが必要なのだ。

集中力だけでなく、精神的にも厳しい戦いだった。

せっかくこっちが時間をかけて一手を指しているのだから、「そうきましたか!」とか「やりますね~」とか、何か画面に表示してほしい。それは無理でも、Loadingがグルグル10秒ぐらい回るとか、「ちょっとPC考えこんじゃってます」的なリアクションがほしかった。

しかも、こっちが「しめしめェ、これでどうだァ」と思っても、PCはあっさりと上回ってくる。それが毎回のように、しかも一瞬で起こる。PCが返してくる手にドキドキしてしまい、まるで黒ひげ危機一発を刺しているような感覚だった。

将棋などの知的ゲームの醍醐味は、心理戦にあると思う。自分の指した一手で、相手は腕をくみ、顔をしかめ、目をつむる。相手を伺える「間」が存在するから面白いのだ。

「間」が欠かせないのは、勝負に限った話ではない。「この人は話を聞いてくれる」「この人の話はわかりやすい」と思える人はどんな人だろうか。戦場カメラマン・渡部陽一さんがゆっくり喋るのは、「言葉が通じなくてもゆっくり喋れば、相手が理解してくれるから」だそうだ。

「人間」の漢字の由来は諸説あるが、一つは「人と人の間に生まれるから」である。これからの時代は、瞬間的に答えを導くAIや、寸分の狂いもないロボットが活躍する。だからこそ人間らしい「間」を持つ人は、ますます大切にされるだろう。

P.S.
ダイエットをしている人には献血ルームは魔の巣窟であるという話はこちら

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