誰しも苦手なタイプの人がいるだろう。僕は、鍛えた身体を見せたがる人が苦手だ。
僕は学生寮に住んでいて、風呂場は共用だ。たまに、上裸のまま部屋に戻っていく人を見かける。その度に「鍛えていることはわかったから、早くを服を着なさい」「高校時代の僕の方がムキムキでしたけど?笑」と心の中でつぶやいている。他人の長所を認められず、意地を張っているだけではあるが。
とはいえ、「能ある鷹は爪を隠す」というのが僕の哲学である。寮の廊下を上裸で歩くより、体育の水泳の授業等、上裸にならなければいけない状況で、「え、お前こんなガタイよかったの!?」とちやほやされるほうがよいと僕は思う。
今や札幌は冬真っ只中であり、風呂上がりに上裸の人も見かけなくなった。
昨日、お風呂で身体を洗っていたら、右肩の背面にあったニキビが破れてしまった。風呂場に絆創膏を持参している紳士がこの男子寮にいるはずはない。そのままパジャマを着れば血が付いてしまうけど、血が止まるのを待っていたら、寒さで心臓が先に止まってしまう。(誇張表現です。脱衣所にはちゃんと暖房がついています笑)
「ー選べ。迷っている時間はない」リヴァイ兵長の声が聞こえる。
僕は選んだ。左袖と首だけパジャマに通して、部屋に帰ることを選んだ。
まあ、別に誰ともすれ違わなきゃいいだけの話だしー
「あ」
部屋まであと10メートルというところで、向かいの住人と出くわした。彼は何も見なかったように、だがいつもよりも確実に速い足取りで部屋に戻っていく。
待ってください!違うんです!!僕は決して、鍛えた右肩甲骨を見せびらかしたわけじゃありません!!!
心の叫びも空しく、彼はバタンと扉を閉めた。

古代ローマの大科学者・アルキメデスには有名な逸話がある。入浴中に浮力の原理を発見し、通りに裸で飛び出したのだ。そこにいたローマの人々は、「わかったぞー!」と叫びながら全裸で疾走するアルキメデスに、不審な目を向けていただろう。彼はただ、謎が解けた喜びに身を任せていただけなのだ。
おかしな格好や行動に見えても、何かしらの理由があったりする。思い込みには気をつけよう。
それにも何か、訳があるかもしれないからさ。
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