将来、僕に子供ができたら、その子が聞いてくるかもしれない。
「しあわせってなーに?」
「すでに人生つまらないのか!?」ちょっと不安になりつつ、僕は考える。この子にわかるようにどう説明しよう?
「それは大切な質問だから、答えは自分で探さないとね」
考える力を伸ばすという建前で、お茶を濁すのだろうか?いいや、待てよ、アレの力を借りよう。僕は立ち上がり、本棚に手を伸ばす。そう、絵本だ。
たとえ将来子供ができなくとも、絵本は非常に役に立つ。なぜなら、人生への深い洞察が含まれているから。
最近帰省した時、実家にあった絵本を読んでいた。そのきっかけは、「嫌われる勇気(ダイヤモンド社、2013)」の著者である古賀史健さんの「取材・執筆・推敲――書く人の教科書(ダイヤモンド社、2021)」を読んだからだ。
本の中で、古賀さんは構成力を鍛えるのには絵本が最適だと仰っていた。漫画と違い、絵本に載せられる描写は限られるので、絵師は物語を理解する上で重要なシーンのみを描く。絵師がそのシーンを選んだ理由を考えることで、文章の取捨選択が鍛えられるのだ。
そんな訳で、構成力を鍛える為に絵本を読んでいたのだが、いつの間にか内容に没頭してしまった。稚拙な話と思いきや、時折表れる金言の数々。いのちとは?勇気とは?幸せとは?何度も思い悩んだものの答えが出なかった疑問が、ページをめくるだけで解消されていく。小さい時に読み聞かせてもらったはずなのに、どうして忘れてしまったのだろうか。今回は、読み返して特に印象に残った3冊の絵本を皆さんに紹介します。
いのちのおはなし(文:日野原重明,絵:村上康成,講談社,2007)
これは、95歳の日野原医師(105歳で亡くなられました)が10歳前後の小学生に向けて行った「いのち」の授業の絵本だ。日野原先生は子供達に尋ねる。「いのちどこにありますか?」
「心臓!」「頭!」「からだぜんぶ!」子供達から声があがる。日野原先生は仰った。
「いのちは、きみたちのもっている時間だといえますよ」
いのちのおはなし(文:日野原重明,絵:村上康成,講談社,2007)
「これから生きていく時間。これから先の、きみたちがつかえる時間。それが、きみたちのいのちなんですよ」
「時間の使い方が、そのまま命の使い方になる」何度も聞いた言葉だが、これほど響いたことはなかった。何に時間を使うのか。何に命を使うのか。他者貢献に尽力された日野原先生の言葉は重みがある。
「きみたちの時間を、きみたちは自分のためだけに、つかっていませんか?」
いのちのおはなし あとがきー「いのち」と「こころ」ー(文:日野原重明,絵:村上康成,講談社,2007)
勇気(作:バーナード・ウェバー,訳:日野原重明,ユーリーグ,2003)
この絵本は日常の様々な場面を用いて、勇気を説明している。
「いきなり ほじょりんなしで つっぱしるのも ゆうき。」
「チョコレートバーの ひとつは、あしたに とっておくのも ゆうき。」
「くちげんかを しても、 じぶんの ほうから なかなおりするのも ゆうき。」
「すごく きれいだからといって ひっこぬいたり しないのも ゆうき。」
勇気(作:バーナード・ウェバー,訳:日野原重明,ユーリーグ,2003)
僕は最初、「どんな行動にも勇気は隠れている」ことを伝えたいのかと思った。でも読み返していくうちに、勇気とは、「迷った時に、より困難な道を選ぶこと」ではないかと感じた。クリケットに混ぜてもらおうかな、感謝の気持ちを伝えようかな、図書館の本を汚してしまったことを司書さんに言おうかな、、。この絵本は、勇気が試される瞬間は日常に転がっていること思い出させてくれる。
クローバーのはらのおともだち(作:西村祐見子,絵:田頭よしたか,フレーベル館,2003)
本が大好きな「きつねくん」は、本に挟まっていた四つ葉のクローバーを見つけた。それは以前クローバーのはらで見つけたものだった。つまり「きつねくん」は四つ葉のクローバーをひっこぬいたことがあった。
「すごく きれいだからといって ひっこぬいたり しないのも ゆうき。」
勇気(作:バーナード・ウェバー,訳:日野原重明,ユーリーグ,2003)
きっと読書家のきつねくんでも、まだ「勇気」は読んでいなかったのだろう。しかしきつねくんは、こわれそうになった四つ葉のクローバーを見て、久しぶりにクローバーのはらに向かう。
「ごめんね。ぼくは ぼくの しあわせばかり かんがえていたんだね。きみを つんで いくんじゃなくて、 ぼくが ここに なんどでも くれば よかったんだ・・・・・・。」
クローバーのはらのおともだち(作:西村祐見子,絵:田頭よしたか,フレーベル館,2003)
きつねくんは自力で悟ってしまった。絵本「勇気」を勧めるなんて、余計なお世話だったようだ。
クローバーのはらに通うようになったきつねくんは、生涯の友となる「くまさん」に出会う。自分の幸せへの執着を捨てたきつねくんに、幸せが訪れたのだ。
まとめ
いのちとは?勇気とは?幸せとは?大人でも頭を悩ませる問いの答えを、絵本は既に教えてくれていた。もちろん答えはひとつじゃないし、正解なんてない。それでも、絵本には説得力がある。シンプルな話と、やさしい言葉と絵で、真っ直ぐに大切なことを教えてくれる。
本屋に行ったら、ビジネス書コーナーを素通りしよう。児童書コーナーで絵本を探そう。帰省したら、テレビゲームをする前に、絵本を探して読んで見よう。あなたが探していた答えが、そこに書かれているかもしれないから。
P.S.
「勇気」の見出しの文章で、「クリケットに混ぜてもらおうかな」と書きました。そんなシーン日本でないだろ!と思われた方もいるでしょう。このように書いたのは、僕がバングラデシュに行ったからです。バングラデシュはインドの隣国ということもあり、クリケットが非常に盛んです。
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