デニムカーブタックパンツ、スウェトイージーパンツ、スーパーワイドカーゴパンツ・・・
ずらりと並んだパンツと商品プレートの数々。小池百合子東京都知事でさえ、こんなに横文字を使わないだろう。1年ぶりにGUを訪れた僕は、ビジネス用のパンツが見つけられずうろうろしていた。この夏、大学の海外研修プログラムに参加し、バングラデシュに行った。その為にクールビズ用の服が必要だったのだ。
程なくして良さそうなパンツを見つけた。その名もドライワイドテーパードイージーアンクルパンツ。翻訳すると、速乾性幅広先細り簡易着用くるぶし丈パンツ、だろうか。
試着したところ、開放感抜群の履き心地が気に入った。このパンツなら、丸太のような太ももを持つ競輪選手でも快適にサドルに座れるだろう。
もう少し歩いていると、テーパードトラウザーSWを見つけた。SWが何の略称なのか定かではないが、美シルエットが欲しいという思いから、こちらを購入。こんな本格的なのに2490円だなんて。まさにコスパ最強だ。
僕は満足して買い物を終えた。そして約一週間後、テーパードトラウザーSWを履いて、バングラデシュを訪れた。
バングラデシュでは、日本政府の資金援助による開発が行われている。研修はその内の一つの工事現場で行われた。その時は9月で、気温は30度前後だった。朝晩は涼しいものの、日中はやはり暑い。照りつける日差しのせいで、じっとしていても汗が噴き出した。
そんな過酷な環境の中、現地のワーカー(バングラデシュ人)は作業を行っていた。僕の隣にいた日本人職員のSさんがつぶやいた。
「彼らの時給は、130円くらいじゃなかったかな。」
驚いた。暑い中、汗を掻いて働いても、時給は130円。しかも、バングラデシュの気温のピークは5月。彼らはさらに厳しい環境で働かなければならない時期がある。Sさんは続けた。
「だからさ、日本で服とか食べ物を安く買えるのは、低い給料で働いてくれている人のおかげなんだよね。」
驚いた、とさっき書いたが、それは嘘だった。僕は思い出した。半年前、『人新世の「資本論」 (斎藤幸平著、集英社新書、2020)』を読んだ。先進国の豊かさは、途上国の犠牲で成り立っていることを知った。その仕組みは目に見えない。豊かな環境にいれば、疑問にさえ思わない。店に並ぶ商品は、もともとその形で、お店に存在しているようにすら思える。
僕は持っていったトラウザーをもう一度見る。「コスパ最強じゃん!」そう喜んでいた自分が恥ずかしくなった。このトラウザーは、誰が、どんな苦労をして、どれだけのお給料をもらい、作りあげたものなのか。タグに書かれていたのは、「MADE IN VIETNAM」の3語。
僕はこれからもGUにお世話になるだろう。だが、安さには代償が伴う。顔も名前もわからない、海の向こうの国で働く人々のおかげなのだ。そのことは忘れずに買い物をしたい。
P.S.
バングラデシュの記事はこちらです。
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