手を振りあえる人生を

リス ぬるい話

僕は見てしまった。おっかけの現場を

それはランニングを終え、小さな公園で涼んでいた時だった。雀達の鳴き声が気にかかった。まるで黄色い声をあげているようだった。雀ってこんなに鳴くんだ!と驚きつつ、大災害の前兆??とも思った。

目の前の木の幹に、一匹のリスを見つけた。リスは木の幹を駆け下り、隣の木の幹を登っていった。何か探しているのだろうか。それとも何かから逃げているのだろうか。答えは後者のようだった。リスの後ろを、黄色い声が追っていたから。

リスも雀も、お互いを食べることなんて滅多にないはずだ。リスがスターに見えたのかわからない。雀たちはまるで、イケメン転校生の後をつける女学生集団のようだった。雀は群れてリスの後を追っていた。近すぎず遠すぎず、絶妙なソーシャルディスタンスを保って。

リスはしばらくの間、雀を撒こうとしていた。しかし、疲れたのか諦めたのか、幹と枝の分岐点に腰かけた。雀の歓声はその間も止まなかった。

そんな様子を観察していたら、一台の車が道路を走ってきた。後部座席の窓は開いており、少年がこちらを見ている。その子が僕に手を振った

公園には僕しかいなかったので、間違いはないだろう(そう信じたい笑)。なんだかすごく嬉しくなって、咄嗟に手を振り返した。わずか数秒の出来事だったが、僕と少年の間にかすかな絆が生まれた気がした

僕はラグビーニュージーランド代表”All Blacks”のウェアを着て、腕組みして立っていた。彼は僕のことをアスリートだと思ったのかも。少年よ、夢を壊してすまない。僕はリスと雀を観察していた暇な大学生なのだ。

そういえば、見知らぬ人に手を振ったことってあったっけ

電車と車掌

家族、友人、祖父母・・・。記憶があるのは、いずれも面識のある人達ばかりだ。いや、あった。僕も小さい時はよく手を振っていた。車掌さんに

受験勉強の時、あるエッセイで読んだことがある。電車が走るのを子供がいつまでも見ていられるのは、電車のパワーに魅力を感じるからだと。そして電車を操る車掌さん尊敬し、手を振るのだと。

僕も小さい時は、トンネルの上の歩道に立ち、電車が走るのを眺めていた。いつまでも見ていられる気がした。機関車トーマスは幼児アニメで一番好きだった。

僕に手を振った少年は、僕のことを電車あるいは車掌さんと勘違いした訳ではないはずだ。ただ、僕のことをパワーのありそうな人だと思い、手を振ってくれたんじゃないかと思う。

僕は高校時代ラグビーをやっていた。今はラグビーも筋トレもしていないが、体格いいねとはよく言われる。筋トレをすると、子供からの好感度が上がるかもしれない。

少年を乗せた車が視界から遠ざかる。視線を戻すと、リスは地面を走り、公園を囲うフェンスの編み目から逃げていくのが見えた。うまく雀を撒いたようだ。

たくさんの雀に追われたリス。通りすがりの少年に手を振られた僕。有名人の大変さと、他人と心を通わす嬉しさを学んだ一日だった。

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